伝統技術と最新技術を融合しながら進化を続ける村田木型製作所にお邪魔しました。
今回は村田社長に、事業の進化やDXの導入、そして未来への展望についてお話を伺っています。歴史ある技術をどのように次世代に継承し、新たな価値を生み出しているのか、その秘訣に迫ります。
目次
私は15年間この業界に携わってきましたが、父が社長を務めていた頃は、会社の労働環境が非常に厳しいものでした。残業は長時間に及び、徹夜が当たり前のような状況でした。しかし、家族以外のスタッフが加わるようになると、この状態では会社として持続可能ではないと痛感するようになりました。疲弊したスタッフが増えれば、いずれ会社そのものが立ち行かなくなるという危機感を覚えました。
このような問題意識から、私はまず他社の環境や働き方を積極的に見て学ぶようにしました。その中で、製造業における効率化のヒントを得ることができました。特に、最新技術の導入が環境改善の大きなカギになると考え、3Dプリンターや切削加工技術に注目しました。特に、3Dプリンターでの試作から切削加工を行うプロセスを取り入れることで、生産性を大幅に向上させる道筋を見つけました。
これらの取り組みを通じて、従業員にとって働きやすい環境を整えつつ、事業としての競争力を高めることができたと感じています。会社としての進化や変革は、働き方の見直しと新しい技術の積極導入から始まるということを実感しました。
近年の消費者のニーズや好みの多様化に対して、私たちはまだ模索を続けている段階です。特にBtoC市場への挑戦は始まったばかりで、ブランドを立ち上げてからようやく1年ほどが経過したところです。この新たな取り組みでは、試行錯誤を繰り返しながら、私たちの製品やサービスがどのように受け入れられるのかを見極めています。試行回数でいえば、現時点で95%、ほぼ100%が試行段階と言えるかもしれません。
私たちのアプローチの特徴として、「自分たちが本当に作りたいと思ったときに作る」という方針があります。それぞれが息抜きとして手がけた作品の中で、良いものが生まれた場合には、それを商品化しています。このように、作り手の想いを大切にしながら、自由な発想で製品開発を行うことが、私たちのスタイルです。
ただ、BtoC市場においてはまだ課題も多く、これからの成長が求められると感じています。そのため、引き続き柔軟な姿勢で市場の声を聞き、改善を重ねていくつもりです。
現在、日本の製造業全体、特に木型業界が直面している課題は非常に多岐にわたっています。木型業界は、組合などを通じて横のつながりはあるものの、外部から見たときにネガティブなイメージを持たれることが少なくありません。「一人前になるまでに時間がかかる」「下積みが長く大変」といった固定観念が根強く、若い世代にとって魅力的な職業に映りにくいのが現状です。
また、後継者問題も深刻です。特に、木型の役割自体が広く知られていないため、業界の重要性が社会に十分に認識されていないことが大きな課題だと感じています。「知られていない」ということは、事実上「存在していない」と同じです。その結果、新しい人材が入りにくくなり、業界全体の存続が危ぶまれる事態を招いています。
しかし、私はこの状況を変える方法はあると考えています。たとえば、岩間工業所の機械のように、未経験者でも扱える技術を導入することで、生産性を向上させるだけでなく、職人技術の敷居を下げることができます。また、未経験者や理系出身でない方でも活躍できることを積極的に発信し、木型業界の役割や魅力を広く知ってもらう努力が必要です。
さらに、業界全体として「発信力」を強化することも重要です。SNSやウェブサイト、展示会などを通じて、自分たちの取り組みや木型の価値を伝えていくことが、若い世代や新規参入者を引き込む鍵になるでしょう。木型業界が存在感を高め、社会的な評価を得るためには、ただ製品を作るだけでなく、自分たちの活動を「見せる」ことが求められています。

デジタル技術の導入は、私たちの業務プロセスに劇的な変化をもたらしました。特に、納期に対するスピード感が大幅に向上した点が挙げられます。これまでは職人が手作業で行う工程が多く、どうしてもマンパワーに依存していましたが、デジタル技術を活用することで、効率が飛躍的に向上しました。
導入前は職人3名での手作業により年間2,000万円ほどの売上を上げていましたが、DX化を進めた結果、現在では4名で年間7,000万円分の生産量を達成できるようになりました。機械の力を活かしつつ、職人ならではの技術やノウハウを組み合わせることで、より精密で高品質な製品を短期間で提供できるようになっています。
この変化は、私たちだけでなく顧客にも大きな影響を与えました。短納期での対応が可能になったことで、顧客のプロジェクト全体のスケジュールにも貢献できるようになり、信頼性の向上にもつながっています。また、製品の品質が安定したことで、リピーターや新規顧客からの評価も高まっています。
デジタル技術の導入による効率化は、単なる生産量の増加だけでなく、顧客との関係性や信頼性を強化する重要な要素になっています。今後も職人技術とデジタル技術を融合させ、さらなる価値を提供していきたいと考えています。
後継者不足という課題に対して、私たちはいくつかの取り組みを進めています。特に注力しているのが、教育機関や自治体との連携です。九州産業大学やその隣にある九州造形短期大学とのタイアップを通じて、若い世代に木型製作や鋳物の世界を知ってもらう機会を設けています。学生たちと一緒にプロジェクトを進める中で、新しい発想やデザインが生まれることも多く、互いに刺激を受けながら成長しています。
また、自治体との協力も欠かせません。地元の道の駅宗像に商品を置かせていただくことで、地域の方々や観光客に私たちの技術や製品を直接触れてもらう機会を提供しています。こうした取り組みを通じて、木型や鋳肌(鋳物特有の質感)の魅力を広く発信し、伝統技術の価値を再認識してもらうことを目指しています。
若い世代にとって、伝統技術が「難しそう」「堅苦しい」といったイメージを持たれがちですが、実際には自由な発想や創造性が活かされる面白い世界だと感じてもらえるよう、デザイン性やアート的な要素を取り入れた製品づくりにも挑戦しています。
次世代への技術継承は、一方的に教えるだけでなく、若い人たちと一緒に作り上げていく姿勢が大切だと考えています。これからも、教育機関や地域と連携しながら、技術と伝統の魅力を伝え、次世代の担い手を育てていきたいと思います。
私たちは、この状況に対応するために、まず自社内での人的リソースと生産量のバランスを慎重に管理しています。限られた人員で効率よく業務を進めるために、DX化(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、機械と人の役割を明確に分けています。これにより、生産性を向上させつつ、無理のない働き方を実現しています。
さらに、業界全体の持続可能性を考え、横の協力体制を視野に入れた取り組みも進めています。同業者同士が競争ではなく協力を重視することで、受注を分散し、業務負担を軽減する道を模索しています。この「横のつながり」は、業界全体の安定にもつながると考えています。
また、内製化の推進も重要な対応策です。これまでは外注していた工程を自社内で行う体制を整えることで、効率を上げると同時に、ノウハウの蓄積やアウトプットを増やしていく方針です。このノウハウを活かして、新しい人材を育成し、業界の魅力を発信することで、次世代への技術継承にも役立てていきたいと考えています。
業界全体の課題に対して、企業単独で解決を目指すだけでなく、業界全体で支え合いながら前進していくことが重要だと実感しています。
Q. 「伝統」と「革新」をどのようにバランスさせていますか?また、その中で難しさや課題はありますか?
「伝統」と「革新」をバランスさせることは、私たちにとって常に考え続けているテーマです。長年培われてきた職人技術を大切にしながら、同時に時代に応じた革新を取り入れることで、業界の変化に対応してきました。
現在では、気がつくと多くの工程が機械によって自動化され、精度も非常に高くなっています。この技術革新により、職人の手作業では対応が難しい部分を補いながらも、製品の精密さを維持できるようになりました。一方で、単純な作業やルーティンワークは機械に任せ、人が行うべき「付加価値のある仕事」を残していくことに重点を置いています。これにより、職人が持つ創造性や技術力を最大限に活かすことができています。
しかし、変化を受け入れることには常に不安が伴います。新しい技術を導入することで、これまでのやり方や職人技術が失われてしまうのではないかという懸念もありました。ただ、変化を恐れるだけでは未来を切り拓くことはできません。私たちは、変化を「進化」として捉え、技術と伝統を両立させる努力を続けています。
精度や品質のバランスをとりながら、どちらかに偏ることなく進化を続けることが、私たちの挑戦です。これからも、伝統を守りつつ、革新を取り入れた新しい価値を創造していきたいと考えています。

Q.弊社の機械を使用した広義のDXについて、どのような点で役立っていると感じていますか?具体的な事例や、導入による改善点があれば教えてください。
岩間工業所の機械を導入したことで、DX推進において非常に大きな効果を実感しています。一番の利点は、「思ったものをすぐに形にできる」環境が整ったことです。これまでは試作や製品化に時間がかかるケースも多かったのですが、この機械の導入により、短期間でアイデアを具体的な形に落とし込むことが可能になりました。
また、「作りたいものをいつでも作れる」という環境は、私たちの業務の柔軟性を大きく向上させました。例えば、新しい製品のプロトタイプを作る際、以前であれば外部の業者に依頼する必要があったため、納期やコスト面での制約がありました。しかし、現在は社内で迅速に対応できるようになり、これが全体の効率化やコスト削減につながっています。
具体的な事例としては、急ぎの受注や複雑な形状の試作が求められるプロジェクトにおいて、これまで数週間かかっていた工程を数日で完了させることができたことがあります。このスピード感は、顧客からも高く評価されており、信頼関係の強化にも寄与しています。
さらに、こうした環境が整ったことで、社内のモチベーションにも良い影響を与えています。「やりたい」と思ったことをすぐに試せる環境があることが、社員一人ひとりのクリエイティビティや意欲を引き出していると感じています。
岩間工業所の機械は、単なる生産ツールとしてだけでなく、私たちの働き方や考え方そのものを変えるきっかけを与えてくれました。今後もこの機械を活用しながら、さらにDXを推進していきたいと思っています。
特にDX(デジタルトランスフォーメーション)は、これからの製造業にとって避けて通れない要素です。一部ではDXを脅威と捉える声もありますが、私はこれを「共存」の視点で考えることが重要だと感じています。DXは、私たちの手作業や職人技術を置き換えるものではなく、それらを補完し、さらに進化させるためのツールです。技術革新を恐れるのではなく、それを活用することで、従来の技術や価値をより多くの人に届けられると信じています。
例えば、デジタル技術を活用してこれまで以上に精密な製品を短期間で提供できるようになる一方で、職人の経験や感性が必要な分野には、ますますその価値が高まるでしょう。このように、新しい技術と伝統技術が手を取り合いながら、より大きな価値を生み出していく未来を目指すべきだと思います。
これからの方向性としては、個々の企業がただ技術を磨くだけではなく、業界全体や地域社会との連携を深めることも重要です。伝統産業としての価値を守りながら、新しい挑戦を通じてより多くの人々にその魅力を知ってもらうことが、未来への第一歩になると感じています。
特に、SNSを活用した発信は、若い世代に業界の魅力を届ける重要な手段だと考えています。私たちも現在、TikTokを含むSNSでの情報発信を強化し、製造業や伝統産業の魅力をもっとわかりやすく、楽しく伝える工夫をしています。動画や写真で、職人技術の繊細さや、ものづくりのダイナミックさを見てもらうことで、「自分もやってみたい」「関わりたい」と感じてもらえるきっかけを増やしていきたいと思っています。
また、この業界にはまだまだ多くの可能性が秘められています。若い世代には、「この伝統を守りながら、自分なりの新しい価値を作り上げる」という挑戦ができる場がたくさんあることを知ってほしいです。私たちのように未経験からスタートして活躍できる環境が整っている会社も増えており、専門知識がなくても一歩を踏み出すことが可能です。
製造業や伝統産業は、これまでの経験を活かしながらも、デジタル技術やデザイン性を取り入れることで新しい可能性を広げられるフィールドです。若い皆さんには、この業界で自分の可能性を試し、未来を一緒に創造していく仲間になってほしいと思います。
また、製造業の新しい形として、「ものづくりカフェ」を作りたいという構想もあります。このカフェは、単なる飲食の場ではなく、製造プロセスを間近で体験したり、ものづくりの魅力に触れたりできる空間を提供することを目的としています。訪れる人が気軽に参加でき、ものづくりに興味を持つきっかけを提供する場にしたいと考えています。
さらに、鋳物を使ったプロジェクトで、ラスベガスのホテルの装飾や建築物に私たちの技術を活かすことを目指しています。国際的な場で私たちの製品が採用されることで、製造業や伝統技術の可能性を世界に示すことができると信じています。このような挑戦を通じて、日本の伝統技術がグローバルに発展していく姿を描いています。
これらの取り組みを通じて、村田木型製作所は単なる製造業者にとどまらず、新しい価値を提供する企業として成長していきたいと考えています。「伝統」と「革新」を融合させながら、地域や世界に貢献できる未来を目指します。